週報タルトトタン

よく寝て、よく食べ、日曜ものかき。

#020 遠い星の音、Outer Wilds


 遙か遠く、というほど距離を隔てていない。宇宙スケールの話なのに。
 だからこそ木の炉辺から飛び立つときに「ちょっと行ってくるか」くらいの気楽さでいられるし、この箱庭の星系を身近に感じられるのかもしれません。

 

 Steamのハロウィンセール2020で買った『Outer Wilds』を先日ようやくクリアしました。
 お前今後やりたいゲーム一覧(#014)でチラリとも触れてなかったじゃないか!
 ……と自分でも思いますが、あの時すでに手をつけていて、なおかつすぐに終わると思ってたんです。結構時間かかりました。

 これがなかなか未知への憧れとエモを煽ってくる素敵作品だったので、今日はその感想を。
 多分いままで感想を書いたゲームの中でもトップクラスにネタバレが致命的です。以下の点にご注意ください。

 ・既にOuter Wildsをクリアした方向けです。容赦なくネタバレが含まれます。
 ・ネタバレはありますがちゃんとした独自の考察などはしていません。お許しを。
 ・この記事を書いた人間は一応クリアしていますが、100%自力ではなく攻略情報に頼らせていただきました。
 ・諸事情によりとあるMODを導入しています。

 

 

 クリアしていない方向けの情報を先に述べておくと、

 ・最後までクリアできない方がもったいないので、本当に苦しくなったときには攻略を頼ってもいいと思うよ。
 ・とある「敵」に対処できないキーボード&マウス派の同志は、遠慮なく「敵を消すMOD」を使うことをお勧めするよ。
 ・クリア時間は攻略に頼って16時間弱でした。自力で粘るともっとかかるはず、多分30時間くらい。

 

 ネタバレなし部分はここまで。
 以下から配慮なし。

 

 

 間違いなく名作だった、しかしそう言い切ろうとするとちょっと胸に引っかかるものがある。そんな不思議なゲームでした。
 「あれは擁護できない」と断言できる部分は二、三あるのですが、だからといって心を動かされた場所・演出・要素を語る時の熱量は衰えない。クリアした後にこのゲームのことを思い出そうとするとやけに混乱します。「よかった! よかった!」と絶賛する自分と「どっちかというとサムズダウンを押すなぁ」と首を傾げる自分が完全に同居してしまっているので。

 ただこの不満が決して物足りなさから来るものではない、これはなんだかんだ重要なように思います。
 期待したものがそこになかったときほど悲しいものはないので……。

 とりあえず時系列順にその時その時の感想を並べて振り返ってみましょう。

 

【そこに「ある」ことの感動】

 まずは右も左も分からないところに放り出されて、一通りチュートリアルをこなしてから宇宙に飛び出し、おぼつかない航行技術でアトルロックに到着(不時着)した時の「おお、フィールドとしてちゃんとここにある……」という小さな感動。よくオープンワールドの宣伝文句で「見える場所には全部行けます、立てます」と謳われるのはこの感覚に端を発するものですね。行こうと思った場所に行ける、実際に目で見てみると望遠では分からなかったものを発見できる。これを実感する最初の一歩が、オープンワールド系での原体験のように思います。

 しかし私もユルいとはいえ人並みには最近のゲームをプレイしてきたゲーマーでありますので、Outer Wildsが初オープンワールドという訳では決してないのですが(むしろ飽食のケがある)(マップをエリアごとに開放するタイプと分かったとたん「またFARCRYだ」と天を仰ぐことしばしば)、そんなあの月面着陸でFARCRY 3でのクルマ移動に近い感動を得られたのは、そもそもワールド自体がオリジナリティに満ちた「初めて見るもの、行く場所」だらけだったからかもしれません。

 キービジュアル、針葉樹の木立の中で焚き火してマシュマロを炙るあの絵からもなんとなく見て取れるように、本作の宇宙は現実のヤバイ宇宙とはかなりかけ離れています。しかしどこか親しみがあり、魅力的。

 さて、アトルロックからさらに飛んで脆い空洞。表面にある以上に密度が濃く、なおかつ広い(ブラックホールという奥行き? も完備)空中都市に出会い、この宇宙の随所にこんな驚きが用意されていることを確信します。

 改めて木の炉辺に戻ってみるとHearthianたちの拠点の外にもちょくちょく探索できるロケーションがあることに気付いてまた嬉しくなったり。
 2b採掘場のNomaiとHearthianの祖先との邂逅の図、すごく好き。かわいいしグッとくる。
 どうも、あの時の水棲生物です。

 

 ちなみに最初の死亡は太陽ダイブだった……? と思います。多分。
 お恥ずかしながら超新星爆発を観測したのは死亡数回目でした。屋内での活動が多くて、ちゃんと太陽が見える位置でノヴァったのは結構後のことでした。
 初周で眼前爆発を経験された方が羨ましい!

 

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忘れちゃいけない、Feldsparとの邂逅もよかった。
いた、本当にいた! と思わず初めてのスクショを撮りました。

 

【理解しはじめてからの自在さ】

 巨人の大海の量子知識の塔あたりからこの楽しさに切り替わっていきます。

 「上から行けば辿り着けるかな?」
 「謎解きが出てきた……この出たり消えたりする鉱石が関係ある?」
 「見ていれば大丈夫、でもこの角度は見られない。視線以外で観測するには……」

 この過程が実に楽しかった。
 謎解きといえばゼルダですが、かなり大きな違いがあって、ゼルダはあたらしい道具がキーになる一方で、量子知識の塔は「プレイヤーの気付き」が唯一のカギとなります。
 いやもちろん偵察機は道具としておおいに活躍するのですが、これは最初から装備している標準装備なのでヒントとしては機能しないということで……(苦しい)。
 ここを自力でチョチョイと解けたときは相当気持ちが良かったです。
 手元にあるものだけでクリアする過程、いかにもNomai的な内省の道のりですよね。楽しい。

 

 謎解きも他にいくらかありますが(記憶がやや曖昧になってきてるので具体的な言及は避けるとして)、最たるものは量子の月の第六の場所ですね。
 Solanumに会ったときの衝撃といったら!

 そこに至るまでに何度も彼らの言葉に出会ってきて、しかし生きた姿は宇宙の何処にもなかったあのNomaiが生きている。
 しかも彼女の名前を自分は知っている!
 どうやって話せばいいんだ……と途方に暮れかけたところで、あの万能の杖で即席の石板を作ってくれたときの言い難い気持ち。

 (正直に申し上げますと、初めてあの石板を見た時、あまりのことに前のめりになりすぎて置き場所の石柱に気付かず、どう使えば……と四苦八苦した末に時間切れを迎えました。あの場所の時間経過早くないですか?)
 (直後、2回目に行ったときは引きのカメラで見たので使い方がすぐ分かりました)

  

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 我らと彼らの差異、4つ目の数にドン引きせず「素敵」と言ってくれたから量子記念日。

対するHearthianは「なんと彼らには3つしか目がなかった」と驚いています。

この対比も面白いね。



 

【簡単なラインを越えてからのダルさ】

 ざっと他の方のレビューや感想を拝見するに、これはほぼ意見が一致するかと思います。
 とにかくアクションがシビア。加えて幅がない。私がヘタなのも一因ですけども!

 相当な回数、ブラックホールに落ち。アンコウに食われ。砂に埋もれて行手を塞がれる。
 私はお恥ずかしながらあまり根気のないタイプのプレイヤーですので、灰の双子星のあたりで一旦プレイをストップし、(その間某2077がリリースされるなどもあり)期間が空き、再開したのは一ヶ月ほど経ってからでした。
 これがまずかった。結構な情報を忘れてしまっていて(とくに航行記録に残らないNomaiたちの記録のディテール)自力で謎を解けるだけのカギをいくつか失くしてしまっていました。
 あの状態から灰の双子星のワープステーションを使うだけのアタマはなかったです、はい。まこと面目ない。

 前述の量子知識の塔のように、Outer Wildsの攻略は結構な割合で「気付き」を必要とします。
 なので、このゲームにおいてプレイヤーが詰まる原因は、「自分では気付けない、視野の外の何かを見落としている」のが大半と思われるのですが、それを自分の足で探し回るにはアクションがちと不便。

 あと、知らないものを手当たり次第探すときは気にならないのですが、特に灰の双子星・脆い空洞の時間経過を待って探索しなければならない手合いは、後半に畳みかけてくることになります。
 したがって下手するとワンミス→待機→再度トライ→ワンミス……と繰り返すことになります。これがかなり辛い。

 

 という訳で私は他の方の攻略記事や動画に全力で頼り、引っかかっていた箇所を他力で突破しました。
 さらには恥も外聞も捨ててアンコウ消滅MODも導入しました。許すまじアンコウ。

 心残りではありますが、後述のゲーム終盤を経験できたことを思うと、野暮ではあれど決してもったいないことだったとは思えないのです。
 自力ですべて乗り越えた方の感動には及ばないかもしれませんが、あれは十分に素晴らしいラストでした。あれを諦めるくらいなら、辿り着けるまで他力の補助輪をありがたく導入しまくったほうが良いと個人的には思います。

 

 アンコウ消滅MODについて補足。
 キーボード操作だとスラスター出力がゼロかフルかの二極しかないため、アナログ入力での「近くだけどちょっとだけ噴出して調整」ができないのです。
 パッドがない、またはうまく動作しないためキーボードしか使えないのであれば、折角なので何回かは食べられてからMODでサヨナラするのをお勧めします。
 アクションが得意でないなら尚更ね。

 

【ラストに向けての演出、実にエモ】

 初見の印象では「得体が知れない超古代文明」だったNomaiが文献の解読やSolanumとの出会いを通して身近な存在になってゆき、彼らの見果てぬ夢を知り、ついには遠い未来の存在であるHearthianがそれを代わりに果たすんですよ!?
 こんな……こんなことってあるか……? こりゃ責任重大ですよ……。

 今まで見知らぬものを求めて宇宙をあちこち探索してきて、繰り返しの中でだんだん見慣れたり飽きたりしてきた頃に宇宙の眼っていう超絶エモい新マップをぶん投げられるんだからもうたまったものじゃない。
 プレイし始めのころの「やべえ……なんだここ……やべえよ……」が戻ってきた瞬間でした。
 怖いけど好奇心が先走るあの感じ!
 偵察機がロストしたときはヒョェって声出ました。怖い。

 

 そこからの展開はだいぶ抽象的というか内的な話になり、それも「知らない、もう元には戻れない場所」の心細さをかき立てて最高でした。
 林の中で銀河たちが静かに死んでゆくのが心底悲しかった。今までは太陽が爆発したって「あーはいはい」位にしか心が動かなかったのに。灰の双子星プロジェクトの中核であるワープコアは持ってきてしまったからもう太陽は戻らないし、他の恒星も、銀河も、宇宙も、全部取り返しがつかない。決まっていることと覚悟していたのに、改めて無事な場所から見届けるとこれほど切ないものはない。

 

 それまではNomaiの文献、Hearthianたちの発言からも未知への好奇心が主題として示されてきましたが、宇宙の眼で集合した探索者たちが手を取り合うことで、主題が「未来へ望みを託すこと」に移ってゆきます。

 この流れが見事。
 それまでのプレイヤーの行動原理は好奇心でしたが、宇宙の眼への道中こそまさしくNomaiからのバトンタッチであり、ワープコアを持って闇のイバラへ飛び立った瞬間、プレイヤーは望みを引き継いだ未来そのものになる訳です(引き継ぎは成り行き上ではあるけども)。

 宇宙の死を迎えた主人公たちは、受け取ったバトンによって辿り着いた宇宙の眼で、新たな宇宙を生み出す=ビッグバンを起こすことで、さらに先の未来にバトンを渡す。

 また野暮なことを言ってしまうと「知的生命体が宇宙の眼を観測するとどうなるのか?」の答えが「可能性の爆発によってビッグバンが起こるよ」なのが未だに解せないのですが、そこはもう置いときます。
 分からん、分からんけど細かいことは置いといてNomaiからHearthian、さらに新たな宇宙へと道は繋がった。
 沁みる。

 

 「引き継ぐ」に関しては宇宙の眼の林の中でSolanumを探すときの、Nomaiたちの骨が空へ積み重なっていってロケットになる演出が心にグッときました。
 ときに神様のようにさえ見える彼らも、最初は一人一人の「あそこへ行きたい、知りたい」から始まったんだなと思うと……。
 あんな画見せられたら泣くしかないじゃないですか……。

 あなたたちの手は宇宙の眼に届いたよ。
 沢山のヒントをありがとう。

 

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動揺してちょっとカメラがズレた。記念すべきビッグバンの瞬間。

 

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今度は宇宙開闢以前から存在するあの偵察機を知的生命体ムシニンゲンたちが見つけて、その起源を探るうちに宇宙の眼へ至るんでしょうか。
 うーん。その探求の旅路に幸あれ。

 

 

 といったところで、時系列で書き出してみるとだいたいこんな感じになります。

 《なんだこれ》
 《楽しい、のめり込む》
 《見慣れてくると粗が目につく》
 《終盤で再度引き込まれる》
 《これは名作!》

 ゲームとしては本当にいろんな面を見せてくれた作品でした。その為、総括して何点、というような言い切りができません。なんとも複雑な後味が残っています。

 万人には薦められない、しかし既に気になっている人には右も左も分からず彷徨ってほしい。
 諦めなかった人には敬意を表したい。
 諦めた人には仲間がいると伝えたい。
 この先きっと何度も思い出すことになる、しかし正直二度とやりたくないし、そもそも二度と「できない」と思う。

 

 少なくとも言えることは、Outer Wildsで体験したことは他のゲームでは当分お目にかかれないだろう、ということです。
 多分フォロワーゲーが出たとしても根本から捻りなおさない限りは真新しいものにならないでしょう。
 そもそも「未知」それ自体が面白味のコアである作品ですので、焼き直ししたとして「既知」にしかならないため、相当難しいと思います。
 もし出てきたらこのブログで大騒ぎするはず。
 大騒ぎできたら嬉しい。

 

 といったところで今日はここまで。
 また次の日曜に。