#025 火事をみるひと
前の記事(#014)でちょっとだけ触れたSteamの積みゲー(熟成すること1年8ヶ月)をついにクリアしましたので、勢いそのままに感想記事を。
ちなみに勉強がてら英語音声+英語字幕でプレイしてみたので、同じような目的の方向けにどうなの? ってところも紹介しておきます。
なお配信はじめました記事(#023)でも言及したとおり、本タイトルはプレイ風景をYouTubeで配信し、それを自分で見返して内容を復習したりしていました。
アーカイブ動画は全体公開してますので、もし序盤の雰囲気を知りたい方がいらっしゃったらどうぞ。
(頑張ったのですが誤訳による勘違いがあったら誠に申し訳ない。)
以下、毎度の如くネタバレを含みますのでご注意ください。
このゲームは特にストーリー主軸で作られているので、あらかじめ筋書きを知っていると全編がただのマラソンになりかねません。
プレイしたい方は是非自分でその顛末を見届けていただきたい。寄り道しなければ4時間程度で終わるので。
【ヘンリー、監視塔へゆく】
まず導入のノベルパートがいいですよね。
求人のチラシをきっかけにワイオミングの大自然へと向かうヘンリーの足取りを追いながら、そこに至るまでの人生を文章で描き出してゆく。
彼の人生の中でも、こんな人を避けた僻地を求めるようになった動機、妻・ジュリアとの出会いから現在までの話を……。
これがもう……音楽もあいまって感情移入してしまうんですよ。
大自然とはいかなくても、ちょっと普段とは違う場所、例えば海辺なんかを散歩しているとやけに古い記憶を思い出してしまったりしません? このノベルパートはまさにその時の感覚に近く、雄大な自然の中を進んでゆくヘンリーに同行しながら彼の追憶に付き合うことで、監視塔に着くころには彼の存在がプレイヤーの「内側」に入ってしまっている……。
この導入でペイできたなって思うくらいには良い。
セールで495円、通常時は1980円でございます(露骨な宣伝)。
そんな「訳アリ」を絵にかいたようなヘンリーに対し、無線でのファーストコンタクトでデリラはこう語り掛けます。
「で、何があったの? こんな職場に来るのなんて、何かから逃げたい人くらいよ」
プレイヤーはヘンリーの事情を知っている。
そこにデリラの単刀直入な質問。ピリッとした空気を感じて、おいおいそこに踏み込んで大丈夫か、と心配してしまう。
それを自覚したとき、しまった、もうこのシナリオの世界に取り込まれてしまった……と思いました。
【簡潔ながら魅力的な自然】
このFirewatchのグラフィックはいかにも2010年代中盤のインディーズ3Dゲームといった様相で、テクスチャは決して精緻ではありませんし、オブジェクトが沢山ある訳ではありませんし、ポリゴンも結構荒い。
しかし色合いが絶妙。
時間帯によって移り変わる日光の色味をちょっとオーバーなくらいに反映して、同じ場所を行き来しても見えるものがガラリと変わってきたりします。Day 1で上がっていった拠点までの山道をDay 2で下りてゆくときが顕著です。夜中、初日の緊張とともに上ったあの山道が、翌朝に戻ってみると朝霧に包まれていて、この荒野が朝晩の寒暖差の激しいらしいことを実感したり。そのヒンヤリとした感じが粗めのグラフィックからありありと伝わってくるんですよ。
これってかなり凄いこと。
プレイ中、景観が気に入ってスクリーンショットを沢山撮ったりしてました。
作中の使い捨てカメラは残数が気になって温存してしまったけど……(これは遠慮なく使い切ってしまえばよかった)。
景観といえば、フィールドのどこかにカメがいたそうなのですが私は見つけられませんでした。
配信(というかほぼ録画)しながらのプレイだったため、思った以上に気ままな散策をできていなかったかもしれない。
ストーリーが散策どころじゃない局面になったから、というのもあるかも。これは後述。
なお作中ではけっこう西へ東へ、北へ南へとマップを移動させられたりしますが、個人的にはそんな広さもないし気になりませんでした。移動距離が長いときは大抵、途中に会話が入るように作られているので、ウォーキングシム部分に飽きるってことはありませんでした。
あ、でも段差をスペースキーでよじ登るとき、カメラがヘンリーの主観に忠実に動くのは勘弁して欲しかったです。上下にガックンガックンするんですよ。酔ってしまう。
【結果、サスペンス】
これは事前情報を読み間違えていた私のミスですが、プレイ前はこの作品のテイストを「大人向け、ビターな“ぼくのなつやすみ”」だと予想していたため、Day 1から一貫してサスペンス風味だったのにはちょっと面食らいました。
というのもヘンリーが一度己の境遇から距離をおくことで改めて静かに向き合い、無線で語り合うデリラの事情にもなんとなくイイ距離感で共感したりして、結果として何かしらの前向きな内的変化を起こして監視塔から出てゆく物語になるものだと思ってたんですよ(それも決して的外れではないけれど)。
もちろんそれだけでは4時間ほどのプレイの間が持たないというのは分かります。よっぽど上手くやらないと間延びした駄作になるわそんなん。
が、どちらかというと前述の素晴らしい導入で「人間ドラマが来るか……?」と期待していたので、ちょっとした気持ちの方向転換をする必要に迫られたりしました。
ただこのサスペンスが期待外れだったかというともちろんそうではなく。
既にヘンリーに感情移入しているプレイヤーとしては、ヘンリーが次々と起こる事件に振り回されながら追い詰められてゆく様を自分のように体験して手に汗握りっぱなしでした。
湖ではしゃいでたギャルたちのテントが引き裂かれていたときは背筋が凍りました。まずい、この近くに「敵意のある第三者」がいるぞ、と。
そんなこんなで前述のとおり、のんびり散策という事情ではなくなった訳です。
シナリオコンセプトはともかく、一貫して「雰囲気ゲー」としてはクオリティの高い体験を提供し続けてくれたゲームでした。
【完全犯罪は成ったのか?】
ここから先はプレイ済みの方向けの感想。
まず大切なことをお伝えしておくと、私は真犯人=デリラ説を採用しました。
全編を通して「サスペンスにおいて関わりの薄い人間が答え=真犯人になるはずがない」という穿った目で見ていたので、デリラには申し訳ないのですが、比較的早い段階から彼女が仕組んでいるんじゃないのか? と疑ってかかっていました。
デリラ自身が真っ黒な悪人とは思ってません。彼女の身の上話に嘘はなく、彼女もまたヘンリーと同じように「ボロボロになってしまった(fucked up)」ひとなのだとは分かっています。だから個人的にはブライアンの死も故意ではなく事故なのだと信じたい(そもそもデリラには思い入れの強いブライアン少年を殺す動機なんてどこにもない)。作中にはブライアンの死の原因および父ネッドの行方について確定できる証拠が(デリラによって示されるもの以外)ないので、この辺りはもう物語の枠外を受け手が想像するほかないですね。
何が怪しいって、作中では一貫して犯人の姿が見えないんですよ。
無線を傍受してメモに起こすのだって、もし真犯人がネッドだったとしてもメリットがなさすぎる。動機が薄い。
洞窟の背後で柵をガシャンと閉められたときに確信しました。デリラとヘンリーは無線通信を傍受されないために新しいトランシーバに替えたのに、なぜ犯人(ネッドと仮定する)はヘンリーの足取りを逐一追えたのか? この場合、ヘンリーを追跡できる人物として最も妥当なのはデリラではないのか。
なぜ姿を隠すべき存在であるネッド(仮)がヘンリーの監視塔を荒らしたり、ギャルたちのテントを襲撃したり、研究所のような場所まで建設したりしたのか……。
そもそもあの研究拠点だって本来はちゃんとした研究用で、ウソ発見器じゃないの? とデリラがささやいたあの機械だって普通の地震計かもしれない。
全体的に、デリラの発言にはヘンリーを疑心暗鬼にさせようとするニュアンスが混じっているように聞こえる。
積極的にデリラが真犯人と示す証拠はないのですが、結果として、「謎の第三者が犯人である」という印象を持たせる出来事が起きすぎている。
不自然なんですよ。出来過ぎている。
そこで「第三者なんて居なかったのでは?」と前提をひっくり返して眺めると、この二か月ちょっとの事件を起こしえた人物は結局デリラしかいない、という結論に至ってしまうわけです。
(※普段なら間違ってるかもしれない……と委縮しながら書きますが、他にデリラ真犯人説の考察記事がいくつかあったため気が大きくなっています。)
もしそれが本当なのであれば、このFirewatchの物語は、主人公が知らぬ間にニセの証拠によってデリラの仕組んだウソが成立してしまった、いわば「完全犯罪」のストーリーになります。
サスペンスとしては主人公が真犯人を暴くのがセオリーのところ、ヘンリーは真相を一切知ることなく、ネッドの告白とブライアン少年の人知れぬ死を胸にひと夏を終えてゆく……。
本編で描かれる筋書きが本当に「嘘」ならば、その謎を暴くべき主人公は、もしかしたらプレイヤーである我々なのかもしれませんね。
知らんけど。
そういう謎の投げ方は好きで、あのスタッフロールのやるせなさもすごく好きなのですが、じゃあそれで作品がすっきりと完結するのかといえばまたこれが難しい問題で……。
個人的には「ノスタルジックな余韻」と「シナリオとしての物足りなさ」を天秤にかけたら、物足りなさの方に傾いてしまうかな、と思います。
真犯人を暴かず、ヘンリーにはニセのストーリーを掴ませたまま終わるのであれば、せめて作中でヘンリーの心境に変化を生じさせてほしかったかもしれない。
「心を揺さぶるようなひと夏の思い出の物語」ではなく「心を揺さぶられる経験をしてきた大人が巻き込まれた、“それはそれとして”の事件の物語」であるように見えるのです。
ヘンリーとデリラが互いに心を開いてゆく様は見応え(聴き応え?)があっただけに、それがヘンリーの帰還にどれほど影響を及ぼしたかがきちんと説明されていないようで、導入で「ヘンリーの人生をなんとかし隊」になってしまったプレイヤーとしてはこう……もう一押し欲しかった。
しかし40代の大人たちは心を開いて真っ向からぶつかりあったりすることはなく、人生の舞台へ戻ってゆくときも大きな成長・変化を必要としないものなのかもしれません。そこは私の勉強および経験不足から生じる不満のようにも思えてきます。
ただし一つだけ言えるのは、クリア後もああだったのか、こうだったのかとアタマを捻りたくなる作品は、間違いなく心に何かしらの跡を残した名作ということです。
【余談、英語読解】
で、英語の難易度。
正直相当きつかったです。ネイティブが肩の力を抜いてサラサラ会話する速度で進行しますし、なおかつこのゲームには会話ログがありません。
私くらいの英語力(だいたい洋画を日本語字幕で観て「セリフ何て言ってるかなんとなく分かるかもしれんな~」程度。洋楽の聞き取りはだいぶ苦しいくらい)ならば、それこそ録画するか、スクリーンショットを撮るか、または動画で一時停止しながら見るかなど対策を講じないと逐一セリフを把握して進めるのは難しいレベルでした。
随所で拾うメモも口語調で書かれているため、中高英語などのカッチリした文語調にばかり強くなってしまった人間としては「分かるような分からないような」となる部分が多かったです。多分こういうのに強くなるには海外ドラマでフランクな会話を聞き流しまくるか、英語圏のコミュニティ(Redditとか)で数を読みこなすか、その辺の訓練をするのが効果的かもしれません(言葉のキレイさでいえば海外ドラマの方が適切かも。外国人がニホンゴを某ちゃんねるで覚えちゃったらアレなのと一緒で……)。
ただワカラン続きでも、役者さんの発音はとってもきれいなのでネイティブの発話を学ぶには丁度いい感じですし(あくまで多分、ですが)、逆に理解できるようになれば会話にはある程度強くなれるかもしれません。
知らんけど(この言葉便利すぎる)。
総括すると、「感情移入させる」「引き込ませる」力を持った佳作雰囲気ゲーでした。
それゆえにラストの肩透かし感というか、ハシゴを外された感が生じてしまったといったところ。
しかしその外されてしまったハシゴについてあれこれと考察を巡らしてみるのもまた楽しい、興味深い構造のゲーム。
プレイ時間が短くて人にオススメしやすいのもいいですね。
といったところで今回はここまで。
また次の日曜に。