週報タルトトタン

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#067 十三機兵防衛圏、最後の感想

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 締めくくりだ! 十三機兵防衛圏!

 長々とプレイ中の走り書きや自分向けの軽い考察記事などを出してきましたが、ようやくこれで最後です。
 この記事では、「十三機兵防衛圏をクリアしたイチプレイヤーとしての総括的な感想」を書いてゆきます。

 今回は未プレイの方に出来る限り配慮した内容にしようと企んでますが、基本的にはどこを切り取ってもネタバレになる作品のため、多少の情報漏洩は避けられない点についてはご勘弁下さいませ。
 流石に「犯人はヤス」級の致命的なネタバレは入ってないはず。ポケモンで言うところの「今回の四天王は何タイプ」クラスのバレは混ざっちゃうかもしれない。

 


 【バックナンバー】

 第一回(#052)
 第二回(#055)
 第三回(#058)
 第四回(#060)
 第五回(#061)
 第六回(#062)
 第七回(#063)
 第八回(#064)
 第九回(#065)
 第十回(#066)

 

 

 各項目ごとに分けて記述する前に、大事なことをひとつ。

 以下の感想はあくまで「私個人が既存のものに対して抱いたミクロな感想」であり、「このゲームは私の希望するように改良されるべきだ」と依頼する内容ではないということです。
 隅から隅まで楽しんだが故に、自分にとって不足として感じられる箇所はいくらかありましたし、それらは不満点として隠さず述べるつもりです。
 しかし、それら個人にとっての不満点によって『十三機兵防衛圏』の魅力が損なわれているだとか、他の方にとっても絶対的な欠点となりうるとか、そういう乱暴なことを言うつもりは毛頭ありません。
 例えるなら、世に出されたゲームは「山」であり、私がやりたいのは「あの坂がキツかった」「あの景色が素晴らしかった」という思い出話であって、「その山を私が登りやすいように造成しちゃってちょうだい」なんて気まぐれセレブお嬢様発言をしたい訳ではないのです。

 長々と言い訳したところで本題に入ろう……。

 

【正直言うと序盤で積みかけた】

 これは隠さずともプレイ日記の序盤のペースを見ていただければ明らかかと思います。
 (プレイしていた8/24~11/24の3ヵ月の中で、本腰入れてやってたのはラスト1ヵ月だけだったり……)
 ここで言う序盤というのは、だいたい三浦慶太郎編が解放されるまで(チュートリアルが終わって少し経つまで)の区間を指します。

 SFの味付けがなされたRTS・ADVと表現される『十三機兵防衛圏』ですが、その実ゲームプレイの面白さのほとんどは「推理、思考実験の楽しさ」で占められています。どちらかというとSFベースの推理ノベルゲーと表現した方が本質に近いはず。
 つまり読み手視点で「なぜこの現象が起こっているのか?」「彼らの目的は何か?」と探ってゆくのが主な仕事となるのですが、序盤においてはこれがなかなかツライ。

 推理のスタートラインに立つには一定量の情報を与えれられる必要があります。パズルのピースが手元になければ、パズルを組むことさえできない。
 このゲームの序盤においてはパズルのピースを一つ一つ渡す段階からストーリーが始まります。
 「機兵とは何か?」
 「柴くんが口にした"沖野の強制コード"とは?」
 「森村とは何者?」
 これらの謎を、ピースも揃わないまま未解決事件として提示される、という展開がしばらく続きます。

 謎が謎を呼ぶ展開は最序盤、それこそ早めに解放されるキャラのプロローグくらいなら集中力を切らさずに進められますが、それが10時間(私はだいたい通常の二倍くらいの時間をかけて遊んでいたので、普通なら5時間)も続くとモチベーション維持に苦労します。
 ブレイクスルーが来るまでは、何も分からないまま話が進んでゆくんですよ。
 この状態で頼りにしていたのは前評判とゲームの手触りですね。
 「もう少し進めればハッとする瞬間が来るかもしれない」と信じてジリジリと進めていました。

 (今思うと、このダレた状態で他のゲームに浮気しなくてよかった……戻れなくなるというよりは、内容を忘れて体験が損なわれるところだった)

 ちなみに、ネガティブな感想の大半はここに集約されています。他は軽微なもんです。

 

【手触りのきめ細やかなUI、UX】

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 これはゲームを始めた時点ですぐに分かる良い点ですね。
 シンプルで、分かりやすく、キビキビ動くUI。

 この作品は一定のチュートリアルを終えると「追想編」「崩壊編」「究明編」の3パートを自由に行き来できるようになるのですが(上の画像の画面が選択画面)、選択画面だけでなく、各パートの画面からも左右にスクロールできる=いちいち選択画面に戻らなくてよい、という行き来するスタイルを想定した設計上の配慮が素晴らしい。
 パート移動については一切ロードがないのも驚きです。
 (私はPS5でプレイしたのですが、PS4版でもロードが少ないという証言を見かけたのでこのように書いています)

 追想編=ADVパートのテキスト表示方法も割と珍しい部類で、テキストウィンドウなどは設けずキャラの頭上に表示されるようになっています。
 名前や別の顔グラなどを併記しなくても誰がどんな表情で話しているか分かる構造は、無駄のないデザインで頭にスムーズに入ってきます。
 ストーリーを追うだけで脳ミソに並ならぬ負荷がかかるこの作品においては、余計な手間が減るという点でも非常に有難かったです。

 このゲームに限らず、どんな作品でもUIがいいに越したことはないんだけども、特にね。

 

【世界に溶け込み、舞台を作り上げるBGM】

 多分、普通にプレイしているだけだとADVパートの音楽をきちんと覚えられないんですよ。
 集中していると、曲がかかっていたこと自体忘れてしまうこともありうる。あった。
 それくらい空気に溶け込んでいる、BGM然としたBGMです。

 しかし全く記憶に残っていない訳ではなく、「主人公Aで経験した会話を、主人公B視点で進める」デジャヴュな場面で、あの時と同じ曲がかかった瞬間に「アッ! あの場面だ!!」と一気に記憶が蘇るんですよ。
 これが気持ちいい。

 また戦闘BGMは良曲揃いで、サントラを買った今はそればかり聴いています。
 戦闘曲は[会話パート→戦闘序盤→中盤→終盤]と変化するように作られており、ゲーム中においては綺麗に切り替えがなされるよう調節されているようです。
 BATTLE START と表示される瞬間に綺麗に戦闘序盤に移行する瞬間が個人的に大好きです。音ハメ気持ち良い!

 

【フルボイスのこだわり、無駄を削ぎ落とした良質テキスト】

 登場人物のセリフどころか、クラウドシンク(単語ごとに彼らの思索をモノローグとして読める機能)も含めて全てフルボイスにしていたのには並ならぬこだわりを感じました。すごい。
 演出も最小限にしてあるこの作品においては、声優さんたちの演技力によるキャラクター人格への肉付け=フルボイスの恩恵は最大限に発揮されていたように思います。

 また、先述のとおりキャラの頭上に台詞を表示する関係で、テキスト量は読みやすいサイズに細かく調整されており、それが台詞の理解のしやすさに直結しているのも素晴らしいですね。
 容量の制限が大幅に緩和されテキスト量を削る必然性のない昨今、ストーリーパートにおける冗長なテキストが散見されますが、『十三機兵防衛圏』においては必要に迫られて削った(と思われる)点においてレトロゲーム的と言えるかもしれませんね。

 東雲先輩の「馬鹿にするな!」「それみなさい/治った…」を始めとする名言たちもそのような土壌から生まれたのでしょう。
 (そうか……?)
 (それはそれとして東雲先輩の危なっかしさと頼もしさのアンビバレンスが芸術的すぎて私は好きだ……)

 

【百合はナシです】

 閑話休題

 これは有識者によって意見が分かれる点ですが、ミワちゃん風に言えば「将来的にAするか否か」で百合とそれ以外を分類している百合好きから言わせていただきますと、『十三機兵防衛圏』に百合は存在しません。
 なお、薔薇は間違いなく存在します。

 あれだけ魅力的な子たちが揃っていて「一組くらいは居るだろ」と期待したあげく爆死するであろう同志のために、繰り返し明記しておきます。
 ここにAまでいく百合はありません。
 "比較的強い関係性"という意味合いでは一組か二組存在しますが、結実はしません。

 ただしそれ以外が珠玉の作品であるため、期待せず進めるなら素晴らしい体験が得られるでしょう。
 以上。

 (この項目要る?)
 (要るとも!)

 

【戦闘パートは説明十分、演出はやや不十分】

 元々RTSはあまりやらない人間ですが、この作品の戦闘パートは割とすんなり手に馴染みました。
 選んだ難易度は「普通」。
 3-2だけ苦労しましたが、基本的にはどのステージも一発でS評価を取れるくらいには甘口だったように思います。
 3-2は敵の配置が厭らしすぎるぜ! 遠距離攻撃するヤツらを一番遠くに二部隊も配置するなんてあんまりだ……。

 細部まで戦略にこだわらなくとも、余程おかしな行動(自爆する怪獣たちの群れに機兵を放置するとか)を取らない限りクリアできないことはないくらいの調整になっているはず。
 また、機兵の強化に使う「メタチップ」はADVパートを進めることでも割と大量に手に入るので、レベル上げのために何度も戦闘をこなさなくてもパワーアップ自体はできるのが嬉しい。

 ただしグラフィックにやや不満が残るのもまた事実。
 個人的には大ボスだけでも倒す瞬間にムービーやカットインが入れば少しは演出上の爽快感が出ただろうなぁ、と思うのですがどうでしょうか。ボスステージには音楽の他にも特別感が欲しかった。
 武器選択画面のアニメーションがあんなにカッコイイんだから、もっと大画面で見たかった(一方で攻撃時にいちいちアレを見せられたらたまったもんじゃないとも思うけど)のも正直なところ。

 とはいえ、敵を倒したときに花火っぽいSEが鳴るのと、メタチップがドパン! ジャララーッ!と流れてゆく様はプレイしていて非常に気持ちよかったです。
 先を知りたくて焦る気持ちはあれど、戦闘パート自体が苦になることはほとんどありませんでした。
 楽しかった。

 

【グラフィックは流石のヴァニラウェア

 説明不要。
 ヴァニラめしも、ヴァニラ背景も、ヴァニラ体型(?)も非常に素敵でした。
 もっとめしを食べるところを見たかった気もするけれど、それはまあ……次回作があるなら是非……。
 森村先生は文句なしのヴァニラ体型でしたね(?)。

 (余談。ドラゴンズクラウンのめしも本当においしそうで大好きでした)
 (余談2。ソーサレス、アマゾン、エルフちゃん、全員かわいくて強そうで超好きでした)

 

【シナリオ】

 イチ個人がどうこう言ってしまっていいのだろうか? と躊躇するほど綿密に編み上げられたシナリオ。

 序盤の項で「このゲームはSF風推理ノベルゲー」と表現しましたが、大前提として推理ができるのは推理される側の事象や論理が破綻していないからなんですよ。
 断片的に得られた情報を組み立てて推論を立てる。この行為が成立するのは、設定された事実に矛盾がなく、なおかつ情報の切り取り方も的確だから。
 遊びとしての推理を許してくれる度量を、このシナリオに見ました。
 恐ろしい完成度です。

 また、パズルのピースを寄越してくるタイミングも神懸かり。何を食って育ったらあんな構成にできるのか!
 進行度ロックをかけるタイミング、その条件設定、全てがロックの先を見るために必要な情報を与えるために設けられていました。

 ADVパートでは好きな人物を選んである程度自由に進められる=情報を得るタイミングが個々人で違ってくるため、プレイ体験やブレイクスルーのタイミングがそれぞれ違ってくるのも面白い点です。
 私に関して言えば、三浦慶太郎編で「ある時代」の描写がなされ、私がストーリーを進める上で重要なピースの一つを与えられたことで一気に物語への興味が高まり、そこからひと月ほどノンストップで走り続けたのはプレイ日記にある通りです(第五~九回までが該当パート。ネタバレの宝庫なので未プレイの方にはおすすめしません)。
 中盤で一気に点と点が繋がり始める、あの感覚……。
 (もちろん中盤で繋がった線がミスリードによるものだった、という展開もふんだんに盛り込まれています)
 (その頃には振り回されるのも気持ちよくなってしまっているんですよね。術中!)

 ちなみに私は「あの作品に似ているね」とファンに挙げられたSF作品に触れたことがなかったので、SF作品マニアではない方であっても十二分にシナリオを味わえるかと思います。SFファンならもちろん各種オマージュを拾ってニヤニヤできるはず。

 そもそも、万が一プレイ中には分からなくとも、クリア後には作中情報のアーカイブ(究明編。単語解説のミステリーファイルと、場面再生のイベントアーカイブに分かれる)で明確に真相を明かしてくれますし。良心的。
 クリア後に血眼になって解説サイトとかを探さなくてよい親切設計となっております。

 

【プレイヤー、成仏する】

 そんな訳で3ヵ月ほど私を悩ませてくれた『十三機兵防衛圏』でしたが、私自身の内面に残った爪痕は思った以上に少ないんですよ。
 心に残らなかった、等のネガティブな意味合いではなく、作中でほぼ全てを解決してエンディング後の未来へ持ち去っていってしまわれたため、もうクリアした後はプレイヤー側でやることが何も残されていないんですよね。
 未練が残っていないというか……トロフィーは基本的にゲームクリア以上の難度のものは存在しませんし(速攻でトロコンした!)、クリア後戦闘もあくまでオマケ要素であって追加ストーリーなどは含まれませんし、考察といってもほとんどが作中で答えを与えられてしまったから大層なことは書けないし。
 もしかしたらキャラ個人に深く思い入れを抱いたファンであればまだまだ尾を引くのかもしれませんが、少なくとも私は少年少女たちの群像劇として一歩引いた視点で見ていたためか、登場人物個人の内面に「解決しなければならない課題」(別名を行間とも言う。極端な例として、キャラ愛のモチベーションや二次創作欲などを生み出す)を見出すことがなく、ああよかったね! と気持ちよくソフトを終了して現在に至ります。

 つまり私は気持ちよく成仏してしまった。
 こういう体験もなかなか珍しく、作中で全て説明しきる、風呂敷を畳み切るというのは恐ろしい完成度のなせる業だと感動しています。

 総じて、『十三機兵防衛圏』はシナリオのフラストレーション(謎)をカタルシス(解)に昇華する手法において非常に優れており、それ以外のストレスを一切排除(快適なUI、秀麗なグラフィック、的確なサウンド)した職人芸の結実である。
 ……と言えます。
 (なんか偉そうに言ってる)
 (それ言ったら全編偉そうだけども……)

 

 

 この1ヵ月半くらい十三機兵防衛圏の話ばかりしている気がする。
 いやあ、どっぷり遊びきりました。メモを取りながら遊ぶの、ハードルは高いけどオススメしたい。推理しがいがあるゲームなので、どんなメモでも割と無駄にならないのが嬉しかった。報いてくれるんですよ。プレイヤーの思考と苦労に……。

 勢いで関連グッズ(公式保存記録、公式脚本集、オリジナルサウンドトラック、リミックスアルバム)を買い漁りました。大大大満足です。特にリミックスアルバムが一編の音楽作品として完成度が凄まじい。
 スイッチ版も出るようですし、また人気が出るといいな。私ももう一度買う予定です。その時は難易度ストロングでプレイしてみたいものです。また違った体験ができるかもしれない。
 (少しでも制作者の皆様方へ還元されてほしい……。)

 これだけ長々と楽しめたのも、愛情を込めて練り上げられた作品であったからこそと思います。
 ゲームならではの体験を、ネタバレなしで自分だけの体験として隅から隅まで楽しみ尽くせたのは2021年で唯一無二の時間でした。
 自分の中で仮説として組み立てていた前提に沿った発言を登場人物がしたときの快感、あれはどんなゲームでも味わった覚えがありません。好きな部分は他にも沢山あるけれど、あれが一番美しい瞬間でした。
 最高のインタラクティブ・群像劇・推理・SF・シナリオをありがとうございました。

 

 といったところで本日はここまで。
 また次の日曜に。