#096 7 Days to End with You、笑顔と涙のわけ
とりあえずクリアできました、『7 Days to End with You』。
Steamサマーセールのついでに買って、一日でワーッとプレイしてしまいました。危険ですコレ。安易に手をつけちゃうと気付かぬうちに夜が明けるタイプの作品ですコレ。
私の5時間半がシュワッと溶けました。
クリア後に残ったのは如何ともしがたい切なさばかり。ああ……。
本記事はインディーゲーム『7 Days to End with You』のプレイ感想記事です。
が、ウィッシュリストにこの作品を入れたままのあなたは、どうか読まずにご購入ください。
なんとたったの520円。さっさと買うっきゃないね!
(既にネタバレを食らっていたとしても、自力でプレイしてディテールを理解してゆく過程はきっと楽しめるはず)
【大将、ゲーム紹介をネタバレ抜きで!】
ヘイお待ち!
見知らぬ場所で目覚めた“あなた”が、未知の言語を話す“彼女”と7日間の交流をしながら、言葉の意味や彼女の意図を理解してゆく。そんな新感覚言語パズルです。
最初は容赦なく雪崩れ込んでくる謎言語・謎文字に混乱してアタマがクラクラしてくるかもしれませんが、大丈夫です。
“彼女”は“あなた”に分かるように一つ一つ、教えてくれます。
まずは“彼女”の言葉や仕草をよーく観察してみましょう。
以上!
(余談。今回の記事タイトル、連番を付けている関係でやけに読みづらくなってしまいましたね……)
(言うまでもなくこれは96本目の記事です。967本目ではないです。将来的にはそのくらい続けたいものですけど……)
以下、ストーリーの核心に関する情け容赦のないネタバレを含みます。
クリアしたてなのでエモに振り回されて文章が乱れるかも(いつものことだな)。
【はじめての言語解析/君は何て言っているの?】
脱出ゲームとかで謎の記号が出てきて、番号やら文字やらとの対応を解読する……というのはよくあるパズルですね。
が、本作の言語パズルっぷりはその比ではありません。
我々に分かる言葉で説明されるのは「プレイヤーのモノローグ」と「メニュー画面」だけです。ほんとにそれだけ。
そしてまあ、ワケが分からんのですよ。実際に“彼女”と話してみると。
いきなり見たこともない謎文字でバーッと話されて、それでいてゲーム側から何もフォローがない。
本当に「未解読の言葉がそこにあるだけ」なので、能動的に意味を類推してゆかないと、シナリオの概略すら分からないまま初めてのエンディングを迎える羽目になります。
この丸投げ感、昨今ではかなり尖った方のデザインだと思います。
ミスリードでプレイヤーを振り回してくるSF推理ADVこと十三機兵防衛圏ですら、最後までプレイすれば全ての真相を自動的に与えてくれるいうのに!
とはいえゲーム中にはヒントがたくさん散りばめられています。このヒントの仕掛け方の妙が、本作を名作たらしめていると言っても過言ではない。
特に「色」「数」あたりが理解できるようになった瞬間の快感は計り知れませんね。
料理のミニゲームが用意されていて、そこに表示されるレシピからかなり多くのヒントを得られる上、料理の出来不出来で答え合わせができるようになっているのが素晴らしい。
クリアした上で振り返ると、「肉」「骨つき肉」の違いで「骨」を理解させるのは見事ですよね。
まあその「骨」ってロクな使い方されない言葉なんですけどね!(錬金部屋を横目で見ながら)(転がる人骨)
また、単語の“解読”方法として26文字→アルファベット対応→シーザー暗号として解いて「本来の英単語」を引き出す、というアプローチもあるそうですが、個人的には(たとえ途中でピンと来ていたとしても)純粋に会話の文脈から推理する(いわば文系的な)アプローチの方が楽しめるんじゃないかと思います。
分からない言葉を読めるようにする過程より、“彼女”の言葉を知ろうとすること自体にこのゲームの本質がある気がするんですよね。個人的に。
詳しくは次項にて。
【“彼女”の魅力/だれかに関心を持つということ】
愛情の反対は無関心とよく言いますが、対象に関心を持つということは即ち対象に愛情を持つことにつながるのでは、と痛感するプレイ体験でした。
パズルゲームを与えられて、さあ言語を読み解こう! と意気込んで“彼女”の発言に注目していたはずが、いつのまにか“彼女”自身とそのバックグラウンドと物語に惹かれている。
クリア後もなんとなく“彼女”のことを忘れられずにアンニュイな気分になっている既プレイヤーは多いんじゃないかと推察します。
まあ可愛いんですよ、“彼女”。
そもそもの見た目や仕草がなんとなく好ましいというのは当然そうなんですが、何も分からずに家の中をフラフラするプレイヤーについてきてくれて、言葉を教えてくれて、少しだけ主人公が言葉を理解できてきたと気付くと大はしゃぎする“彼女”。
後ろ暗い研究にまで手を出して、主人公を蘇らせようと心をすり減らしている“彼女”。
最初こそ、いきなり怪しげな二階の錬金部屋を見せられて「この子、相当やべーことしてるな……?」と疑心暗鬼になりますが、その目的を知り、過去も失敗続きだったという独白を聞くころには、もう……抱きしめてやりたくなる……。
(でも大量のマテリアルことニンゲンの血肉を集めて回るのは流石に勘弁な!)
生前の“あなた”は、“彼女”にとってどれほど大きな存在だったんでしょうね。考えるだけで気が遠くなる。
また生前の“あなた”にとっても、“彼女”が大切なひとだったのだと信じたい。
だって最初に覚える言葉が“彼女”の名前なのだから。
【マルチエンディング/自らの手で審判を下す】
本作はマルチエンディングですが、私個人の考えとしては、やはり「罪」→「全てを終わらせる」→「“彼女”の名前」が一番綺麗なエンドなのだろうと思っています。
断ち切れない未練から、成功する見込みのない死者蘇生の実験を続けても致し方ない。
“彼女”自身の罪が重なってゆくだけだし、なにより今後も被害者が増え続けるのを看過する訳にはゆかない。
そしてその繰り返しを止めてあげられるのは、殺人者として“彼女”を裁く他者ではなく、自責の念に駆られる“彼女”自身でもなく、紛れもない“あなた”に他ならない。
やっていることはほぼイタコだの口寄せの術だのに近いですが、別れを告げられなかった大切な人への未練を断ち切るにはこれしかないように思います。
不完全な形ながらも蘇った“あなた”自身から、“彼女”に「もういいよ」と言ってあげなければならないんですよ。きっと。
とはいえ“彼女”の心を思うとあまりに辛く切ない……。“あなた”は毎度のこと不完全体だし、セミか何かのように7日間で死んでしまうし、記憶を取り戻しかけても「もうやめよう」とか言ってくるし……。あまりにもやるせない。
で、例のメモを渡すラストカット。これは二通りの受け取り方ができるなと。
・あの世界の母語が作中の謎言語なら、英語の本はあの世界にとっての「錬金術語」で、あのシーンは過去の回想になる
・あの世界の母語が我々の世界の言語なら、あのメモは作中世界から引き継いだ記憶によるもので、あのシーンは転生後とかそういうアレになりうる
いずれにせよ、メモで呼びかけているのは“あなた”であり、錬金術を学んでいるのは“彼女”であることは間違いないでしょう。
転生などはいまひとつ信用しきれないので、“あなた”が最期に“彼女”の名前を呼んだことで、走馬灯的に蘇った過去の記憶……とするのが一番分かりやすいと思われます。
(これに関連して、作中の“あなた”がこちらの世界の言葉で思考できているのは、あの世界における「こちらの言葉」がいわば異界の「錬金語」だからなのではないか? という仮説も立てられますね)
(“あなた”は錬金術によって蘇り、その母語は「錬金語」に置き換わっている……的な……)
(まあ初日の「身振り手振りで反応する」から否定される説ではありますが)
何にしろ、このゲームの冒頭で明言されたように『あなたはこの物語を自由に解釈することができます』以上でも以下でもない訳で。
ラストカットに至るまで正解の解釈がないところに、ブレないそのスタンスを感じられて好きですね。
【これ百合?/解釈の幅はかなり広いけれど】
個人的なジャッジとしては百合判定入りました。
そうじゃない可能性も十二分にありますが、最早誰が何を言おうと私はこれを百合にカテゴライズします(鋼の意志)。
【システムまわり/不安定だったり不親切だったりはする】
これに関しては結構「ん?」と思うところは多かったです。
が、アップデートでかなり改善された後のようですね。進行不能になるような致命的なバグには遭遇しませんでした。
暗転時に一瞬だけ画面がチラついたり(多分暗転レイヤみたいなものが間に合ってない)、モノローグ時はメニューを弄れなかったり(お陰で初周はしばらく音量を弄れなくて大混乱した)、メモなどを開いたときのBack挙動が不親切だったり(メモ外をクリックしたら戻れるようにはしてほしい)、会話ログが存在しなかったり(たぶん辞書とのリンクの関係で物凄く難しいんだと思う)、微妙に痒いところに手が届かない。
ですがこのゲームのコアはコンセプトとストーリーなので、最終的な印象はそんなに悪くありませんでした。
まあ大した問題じゃないということです。
感想としては以上となります。
いやあ、凄いことですよ。「言語解析パズル」という形でゲームを完成させたことも、これだけの単語数で物語を成立させたこと自体も。
ストーリー自体に目を瞠るような新鮮味がなかったとしても、積極的にプレイヤーからアプローチする中で否応なく没入感が上がってゆき、いつの間にか物語が『本物』になってますからね。
久々にすごい体験ができました。
いっそiOS版も買ってしまおうかな、と悩むくらいには好きですこのゲーム。“彼女”のことも。
そんな感じで今週はここまで。
また次の日曜日に。