週報タルトトタン

よく寝て、よく食べ、日曜ものかき。

#136 Sable感想:砂漠の旅は一度きり

 

 最初で最後の「大人の自分を見つけるための旅」。
 主人公の目の前に広がる砂漠は未知に溢れていて、それでいて優しい。

 

 いやー、前々から目を付けていたんですが、買ったっきり積んでいた『Sable』にようやく着手しました。
 そして二週間くらいかけてじっくりプレイし、クリア。
 素晴らしい体験でした。
 ずっと積んでたのが勿体ないくらい。もっと早くプレイすれば良かったな。

 他にも色々と書くべきことはある気がするのですが(某ケモンSVのストーリー感想とかね)Sableをクリアしたら全部持っていかれてしまったので、とりあえず今週はこのタイトルの感想回とします。
 この思い綴らいでか。

 

 手始めにダイレクトマーケティング
 SableはSteam、PS5、Xboxで遊べるシングルプレイのオープンワールドゲームです。
 ジャンルとしてはアクション寄りですが、テクニックはそこまで要求されません。
 お値段もお手頃なのでバイナウ。この記事の後半はネタバレで出来ていますので、未プレイの方はさっさとクリアしてからこの記事に戻ってきてください。最低限、戻ってこなくてもいいのでクリアしてください。良い作品だから。
 私はSteam版をプレイしました。快適だったよ。

 

 

 日本語ローカライズも完備。
 私は異国情緒を味わいたかったので英語版をプレイしました。そのためこの記事の固有名詞とかは日本語版とズレてるかも。
 あと英語力が半端なので微妙に読み違えてるところもあるかも。努力はしたのでご容赦を。

 

 導入はこのくらいにして、以下本文。

 

 

 

 

【“通過儀礼の旅”という導入】

 この設定がまず最高なんですよね。絶対に心に刺さる奴じゃん、子供から大人になる過程の物語って。

 

 この世界の人々は、大人になるときに一つの役割=仮面を選びます。
 いきなりホイ決めろと言われる訳ではなく、一定の年齢になったら世界を巡る旅に出て、各地で仮面を集めて回り、心が決まったらその中の一つを選んで旅を終える。
 それが通過儀礼、『グライド』。

 このゲームは、Sableという名の少女がその通過儀礼の旅に出る物語を描きます。

 

 自分の仮面は一生に一度しか選べないので、望めば転職できる我々の世界よりもずっと重い選択を迫られます。
 だからこそ世界を巡り、様々な生き方をする大人たち、街、遺跡の歴史をその目で見て、選択肢を増やしてゆく訳ですね。

 

 いやぁ……もう……ズルい……(語彙の終焉)。
 既に“選択”をして大人になった人間としては、どんな道を選んで生きてゆくか悩んでいたあの頃を思い出してしまって胸がギュッとなるんですよ……。

 

 新しい生き方を想像するときの、なんともいえぬ期待。
 未知の世界へ一歩踏み出す前の、漠然とした不安。
 初めて一人で世界に飛び出したあの心細さ。解放感。
 先を行く大人たちの眼差し。

 

 このゲームには全部詰まってます。
 子供たちも楽しめるでしょうが、このゲームからより多くのメッセージを読み取れるのは『働いている大人たち』であるように思います。
 要はノスタルジー
 思い出に訴求する作品はいつだって名作だ。

 

 ……としみじみ感傷に浸っておりますが、勿論「進路選びなんて苦痛でしかなかったぞコラ」といった向きもございましょう。
 正直に言うと私もそうです。大人になるということに漠然とした憧れを持っていたのなんて小学校高学年くらいまでだったと思う。
 それ以降の具体的な記憶についてはまあその、ええ、ハイ(目を逸らす)。

 

 その辺の現実的な苦々しさまで掘り返さずにノスタルジックな気持ちでいられたのは、ひとえにこの『Sable』の世界が“プレイヤーにとっても未知の世界”だったから。
 主人公・Sableと同じ視点で好奇心のままに探検できるからこそ、この旅はプレイヤーに初心を思い出させてくれる。

 

 その“未知”の部分について言及するのは当然ながらネタバレになるので、以降の内容を読む際はご注意ください。
 初見だからこそ楽しめるゲームです。是非まっさらな気持ちで飛び込んでください。バイナウ(2回目)

 

 

【シンプルな手法で描かれる砂漠の世界】

 懐古的ですらあるシンプルなアートワーク。
 90年代~00年代のアニメ映画なんかを熱心に観ていた人ならきっと気に入ると思います。
 特にセル画が好きならストライクゾーンですね。

 3Dモデルながら「線」と「面」を強く意識させる描画は観ていて直観的に面白い。どの瞬間を切り抜いても名作アニメのような趣があります。スクショをそのまま壁紙にできるレベル。
 くどくど説明するのもアレなのでお気に入りの画像たちを貼っときます(説明するのがこのブログの存在意義なのではないのか)。

 

 良い……。

 上の3枚ですが、それぞれ彩度が全然違いますね。
 同じ場所でも時間帯によって色合いが劇的に変わるので(昼間はビビッド、明けと暮れはボンヤリ)印象がかなり違ってきます。これがまた良いのよ。

 そして地域によってもまた彩色が変わってくるので、まだ見ぬ景色を求めてホバーバイクを駆る動機が増えます。
 通過儀礼なんて関係ねぇ! 写真を撮らせろ写真を!(だめな大人)

 

 

 ただ茫洋とした砂漠が在るだけじゃない。
 Sableの世界には遺棄された謎の宇宙船や得体の知れない遺跡が点在しています。

 この作品の魅力のコアに、これらの建造物の「メカ、工業」的フェティシズムがあるのは間違いありません。

 

 宇宙船の内部がね、グッとくるんですよ。
 映画『メトロポリス』(2001年、手塚版アニメの方)で観たあの精緻なビル群、アレに対する憧れに近いものを感じました。
 ぶっ壊れた鉄骨! 砂に埋もれた鉄柵! 掠れて読めない右舷の船名!
 たまらん。

 

 もしゲームそのものに飽きたとしても、せめて積む前にThe Whaleだけは見てほしい。
 あの巨大宇宙船の内部は圧巻ですよ。よければ昼と夜両方の時間帯に眺めてください。

 

 

 もちろん道中の砂漠自体も大変フォトジェニックで楽しいです。
 初期のホバーバイクの噴射がスーッと綺麗に尾を引くところとかは『AKIRA』のテールランプ表現っぽいですね。滑らかで気持ちがよい。
 バイクのカスタマイズもできるのですが、この初期型の見た目が好きすぎて殆ど換装しませんでした。登攀力は微妙ですがトップスピードはピカイチなのでヨシ。

 

 シェーダーが云々と語れたらイイなと思っていたのですが結局好きな部分語りに終始してしまった。
 そもそも私は技術的な部分を語れるほど知識がないのでそれでも良いか。当方ただのゲームファンだもんで。

 

 なお、人物などのデザインや配色なんかはバンド・デシネ(フランス語圏の漫画)風だと言われていますが、当方のバンド・デシネ知識は「Gravity Dazeシリーズのモチーフらしい」くらいしかないので深く触れません。
 非常に魅力的なのでこれを機に逆流して深堀りしてみたい気持ちはあります。気になる。

 

 

【で、リアル社会人の心に何が残ったか】

 取り留めのない感想になってきたのでここらで本筋に戻ろう。
 Sableの旅に同行してプレイヤーたる私が何を思ったかという話。

 Sableの中のヒトとして私が最後に選んだのは、『登り手の仮面』でした。
 この旅を通して一番印象に残ったのが「山や壁を登る体験」だったから。
 ギリギリまで機械工の仮面と迷いましたが、どちらも良い選択肢であると認めた上で、グライドで経験したあの高揚感の一片を追い求められる『登り手』がより魅力的だと判断しました。

 

 とはいえ、最後の選択の時まで彼女のモノローグは迷い続けます。
 グライダーとして「落下」を恐れずにいられる期間を終えても、その危険に挑み続けるのか?

 『登り手』として高所の遺跡や船にアクセスすることで社会に寄与できるのは素晴らしいこと。
 山の頂上から眺める景色も同じく。
 けれど、それは人生を賭けるに値するのだろうか?

 

 

 ここにきて、グライダーだけが滑空でき、グライドを終えるとその力を手放さなければならないことが効いてきます。
 それまで当然のように落下しては宙に浮かんだりしていましたが、仮面を選んだら当然その“保険”が無くなる。グライダーの石を手放さなければならない。

 

 「石は、初めて世界を旅するグライダーの失敗を許してくれるもの。石のおかげで恐れを知らずに山を登り、達成感を味わうことができた」
 と、Sableは振り返ります。

 

 お、重い。
 そりゃそうだ、プレイヤーからすれば快適な滑空を楽しんだ結果の選択ですが、Sable当人からすればこれから先に向き合うべき恐怖と責務まで考えなきゃならない。
 若者だから許された無謀が、本物の「命がけの仕事」に変わる。
 それでも良いのか?

 

 

 最後まで一緒に悩みながら下した決断でしたが(実際に「やっぱりやめよう」と中断できるタイミングがいくつもある)、Sableは「世界を見る」ことに価値を見出してくれた。
 この仮面と共に進むという力強いモノローグと共に。

 

 

 ……クリアした現在もまだ、この選択について考えています。
 結局どの選択肢を選んでも何かしらの後悔は残るよなぁ、と。

 どれを選んでも同じという意味ではなく、どれも等しく価値があると認めているからこそ、選ばなかった選択肢はいつまでも頭の片隅に残り続けるんですよね。
 機械工になってマシンの建造や修復に明け暮れてもいい。
 商人になってのんびりと町々を巡ってもいい。
 登り手にならなかったことで得られる幸せもある。

 クリア後、通過儀礼を終えたSableが、選び取った道で幸福を見つけてくれることを願うしかできないんですよね、プレイヤーは……。

 

 「自分で選んだから後悔はない」なんてことはなく、岐路に真摯に向き合うほど後悔は増えてゆく。
 どの選択も誤りではなく、最後には手元に残ったものを真実にしてゆく他ない。
 そんなメッセージが心に残りました。考えすぎかも。

 文字にするとちょっとネガティブに見えますが、これって「現状」を生きる人間にとってはとても前向きで肯定的な考え方だなと。

 

 

 石を手放す時のためらいに全てが詰まっているよね。
 モラトリアムの終わり。

 

 


 といった感じで、かなりアレコレ考えながら味わい尽くしました。Sable。名作でした。
 クリア時間は20時間弱。
 実績は釣りとビバリウム以外全てクリア。クエストも殆ど消化したはず。

 オープンワールドにしては小ぶりな造りですが、『Sable』という作品を体験するには過不足ないボリュームだと思います。
 この辺の、ゲームとしての感想もちゃんと書けばよかったな。
 アクション部分はオーソドックスな感じでした。
 美術が刺されば間違いなし。スクリーンショットを見てビビッと来たら(死語)クリアまでノンストップで楽しめるはずです。

 

 今回は妙におセンチな内容になってしまったな。
 まあそういう作品だったということでここは一つ。

 今週はここまで。
 また次の日曜に。