#143 THE LONGING感想:切望の日々の終わり
400日経ったら起こしてね。
と言い残して眠りについた王様を待ちながら、地下の世界をウロウロして暇をつぶす。
THE LONGINGはそういうゲームです。
以前の記事でSteam版をプレイし始めたと報告しましたが(#138)、このたびめでたく400日間の待ちぼうけを終えたので完走した感想を書いてみようと思います。
リアルタイムで400日経ってないじゃないか、という点については後述。
ストーリー……というかエンディングについての感想は記事末尾に隔離しますので、ネタバレを回避しつつどんなゲームか知りたい方は前半部分のみお読みください。
クリア済み/ネタバレを気にしない方は注意書きを跨いで先にお進みください。
本作はSteamで1700円。
『400日間』と聞いて興味をそそられた方であればきっと値段分の楽しみを得られるはずです。
前置きはこれくらいにして、以下本文。
【どういうゲームなのよ】
“スローライフゲーム”というと多くの場合はやる事の多さ故にハイスピードスタイリッシュスローライフになりがちですが、このゲームはそういった意味ではなく本当にスローなゲーム体験を味わえます。
これをスローライフと言わずして何をスローライフと呼ぶのか。
プレイヤーがポイント&クリックで操ることになる主人公Shadeくんは、とにかく歩くのが遅いです。
どこまで広がっているかも分からない地下帝国の洞窟を進むときも、探検から自室に帰ってくるときも、とにかく遅い。ペッタラペッタラと眠くなるようなペースで歩く。その歩みに焦りはありません。何故なら彼には1年以上の長い長い時間が与えられているのだから。
加速なんて生易しい機能はありません。彼がのんびりと歩く様をボーッと眺めましょう。
幸いにも、立っている地点を記憶する機能は与えられているので、一度到達したところを記憶すれば、二回目からはオートで歩いてゆけます。
別に速度が変わったりはしませんが。まあ目を離していられるだけでも御の字です。
で、ペッタラペッタラと歩いて新しいマップに辿り着けたとして、実際にそこで特定の行動をとれるかは別問題。
崖があって飛び降りられない。崖下の苔が育ってクッションになるのを待とう。1ヶ月待ち。
窪みが深すぎて向こうに行けない。水滴が溜まって泳げるようになるまで待とう。2ヶ月待ち。
このゲームこんなんばっかです。スローです。
しかし焦る必要はありません。彼には1年以上の時間が与えられているのだから。
……こっちは1年以上も付き合ってられんわ!
と反発する向きもあるでしょう。私もそう思います。
ご安心あれ、Shadeくんには自室が用意されており、この自室の設備を拡充することで「自室で過ごす時間が早く感じる」=「ゲーム内時間がリアルタイムよりも早く進むようになる」のです。
地下帝国はこの自室を充実させるための資材置き場と捉えてもよいです。
各地にある石炭、水晶、カーペットなどの家具、あとは本。これらを集めてどんどん過ごしやすいお部屋を作りましょう。
最終的に、我々の1秒が彼にとっての15秒くらいになります。15倍。ここまでくれば400日なんて単純計算で1ヶ月足らずで飛んでゆきます。
これこそが購入1ヶ月後にゲームの完走記事を書ける理由です。
ある程度の手間をかけさえすれば、愚直にリアルタイム400日間マラソンをする必要はありません。
部屋の拡充自体はそんなにハードル高くありませんし。
「続きはまた明日」を許容できるなら待ち時間も苦痛にならないはずです。
【で、実際にプレイしてどうだったのよ】
動きがトロいのも、エリア解放で待たされるのも、そういうゲームとして割り切れたので平気でした。
むしろそれを体験するために買ったかもしれない。快適さではなく不便さにステータスを振ったゲームってたまに遊びたくなりますよね。何故だろう。
ただし私が購入前に想定していたのはかの有名な某Cookie Clicker的な仕組み。
要は別の作業をしながらバックグラウンドで走らせておくと何かが起こるよ! といった“放置ゲー”を期待していたのです。
これに関しては期待外れというか、想定した仕様とは異なっていました。
主人公Shadeくんは基本的に指示されたこと以外はしません。歩けとつつかれなければ座り込んだままだし、違う本を与えなければ本の最終ページをずっと眺め続けます。
プレイヤーが働きかけなければ変化が生じない。
Shadeくんは結構手がかかる子です。
そのため、ゲームを起動しているときは基本的に操作が必要ですし、逆に操作しない放置ターンでは起動している必要がありません。
時間は勝手に進むので、裏で走らせて置かなくてよいのです。
PCのリソースを食わないと言えば利点ですが、ちょっと目を離した隙にあんなことになってる! というサプライズがないのはちょっと残念でした。
(これは仕様をきちんと把握せずに買ったプレイヤー側の問題でしかない)
(それはそれとして閉じていても時間が進むのはそこそこ面白いと思った)
そう考えると、この『THE LONGING』は放置系ゲームとはまた違ったジャンルに分類されそうです。
クッキー焼きとは真逆の性質かもしれない。
なんでもかんでもクッキーと比べるのはどうかと思う。
(別ゲーをプレイしながらTHE LONGINGをつつき、更に裏でクッキーを焼いていた狂人の言)
(複数作品の同時進行が癖になってきている)
(立派なクッキー後遺症)
【ボリューム】
ボリュームはないです。(断言)
これは長所でもあり短所でもあると考えています。
この作品の主題は「本当に王を待つのか? ここで?」というShadeくんの自問にあるので(多分)、その感覚をプレイヤーが体感するには丁度いいマップ密度です。
先述の部屋拡充ミッション(そもそも必須ではない)は実プレイ時間30時間もしないくらいで完了するのではないかと。
それを終えると本当の待機時間が始まります。
ひたすらShadeくんに「次はこの本を読もうね」と指示してはゲームを閉じる日々。
やろうと思えばもっとじっくり探索したり、お部屋のインテリアに凝ったりすることも出来そうですが、そこはまぁ……個人の素養かな。
少なくとも私は帰宅後にちょっと覗いて「おっ、もうこんなに時間が進んだ」と喜ぶ感じのゆるい付き合いをしていました。それで十分でした。
【美術・音楽】
良いです。とても。
特に音楽、あの重ッ苦しい感じが閉塞的な地下帝国をよく表現しています。
あとは水晶の間とか、苔大量発生洞窟とか、同じ地下空間ながらどれも雰囲気があって綺麗でした。
ただの岩壁だけで済まさないアートワーク、素晴らしい。絵本を読んでいるような手触りがありました。
このアートワークがなければ「400日間待つゲーム」なんて恐らく買わなかった。
【トロフィー】
攻略を見ました。(正直な告白)
私は横着して先人の知恵に頼りましたが、根気があればどれも自力で発見および実現可能と思われます。少なくとも人力で困難なものはありません。
が、それを実際にやれるほどの気力、意欲、時間を持ち合わせていませんでした。ごめんな。
あくまでスローなゲームであり、未知の場所に到達できたからといってドーパミンがドバーするタイプのゲームではないので、有志の作ったマップを見るくらいなら別にいいんじゃないかと思います。言い訳。
ゲーム内でもマップを確認できる場所あるし! 仕方ないね!
(本当は自力で挑戦しなかったことを少しだけ後悔している)
※ここからネタバレ※
【ストーリー】
私は400日後、王を目覚めさせるエンドを選びました。
王が復活して全ての存在を滅ぼし、太平の世(無)が訪れましたとさ。どっとはらい。
エンディングの後、周回は不可能と判断し、残り全てのエンディングをネットで調べました。これは仕方ないね。仕様上、プレイは一度きりっぽいので。
で。
結局何だったんでしょうね、地上も地下も。
地上に住まう人々の姿から、この世界はどうやら我々の知る世界とは異なるらしいことは分かる。が、地上と地下との関係は分からない。
何があって王様が地下で眠りについたのかも謎。
秘密の塔で何かしらの実験が進められていたらしいことは分かった。この塔の持ち主はかつての王か?
王は何故、「苦しみも切望もない世界を」としてすべてを根絶やしにしたかったのか?
あくまでこれらの断片的な物語は“400日間の待ちぼうけ”という舞台のフレーバーでしかないのかもしれないな、というのが現在の結論です。
だって情報が少なすぎますし、プレイヤーが主に見てきたのはShadeくんの内省だったので、世界のことなんて知りようがないですし……。
さて、400日後に王様を起こして世界を深淵に沈める、これがハッピーエンドだったのかという点ですが……。
個人的には正規ルートであると思いたいですが、これはもうプレイヤー個人の主観でしか決められそうにないですね。
Shadeくん個人を救える井戸エンド(地上へ引き上げてもらうアレ)は演出的にいかにもハッピーエンドですが、その裏で彼の宿命たる王は目覚めることなく静かに滅びてしまう訳で。
目覚めさせると全てを滅ぼす以上、王はアカン存在なのかもしれませんが、とはいえ死は救済(そのまんまの意味)を地で行ったあのエンドの静けさは個人的に嫌いじゃないんですよね。
うーん、でも水晶洞で大喜びしていたShadeくんを見るに完全なる無の世界を彼が喜ぶかは……ちょっとな……。
でも地上がShadeくんにとって本当に幸せかも分からんし……。
といった感じで、クリア後少し経った今もズルズルと引き摺っております。
そりゃ時間加速込みでも1ヶ月は付き合ったゲームなのだから、選んだ結論にはそれなりの重さが生じますよ。選べるのは一度きりだし。
なるほど、これは……してやられたな……。
そんな具合のTHE LONGINGの感想でした。このモヤッ……ジメッ……とした感じは恐らくプレイした人にしか共感して貰えない気がする。
買わずにここまで読んでしまった奇特なあなた、今からでも遅くありません。プレイしましょう。
これは実際に触った人でないと分からない感覚です。
400日間なんてあっという間ですから! ね!
(井戸から伸びる手)
(こわい)
さて次は何の記事を書こうか。
暫くゼルダしかしていないけれど、まだ記事にできるほどしっかり言語化できていないんだよな。
……今日に至るまできちんと言語化できていた試しがないな。じゃあ問題ないか。無敵だ無敵。書き散らそう。
それでは、また次の日曜に。