週報タルトトタン

よく寝て、よく食べ、日曜ものかき。

#016 小心者の二言勘定

 

 たったの一言では胸中をピタリと言い当てることはできない。……ということに、常日頃悩んだりしています。

 もちろん「そうそれ!」と納得して膝を打つこともあるでしょう。例えば何とも言えぬ悩みを友人に打ち明けたりして、もしかしてこういうこと? と別の視点から要約してもらったときとか。
 伝わった喜びや理解してもらえた嬉しさを噛みしめるひとときですが、今日のはそういう話ではなく。

 言語はいつも不確実性をはらんでいます。発した人間が意図するものに対して適した語を選べているか。選んだ語句が、どれほど正確に「程度」を表せているか。更には受け手がきちんと発話の意図と目的を理解できているか。
 業務や専門分野の世界ならまだマシかもしれません。そういった場で使われる言葉にはある程度、前もって取り決めがなされていますから(いわゆるコンテクストというやつ)、認識の個人差でどうにも立ち行かなくなるなんてことはそう多くないように思います。
 厄介なのは、前提条件が個々人でまるで違う、主観の話をするとき。

 今日の記事は平たく言ってしまえば会話や作文に慎重になりすぎてクタクタになる、面倒な小心者の与太話です。

 

 

 口語も文語もシンプルな方が小気味いい。
 引き算ほど難しい、とよく色んな分野で言われますが、これは言葉の世界でも同じことが言えると思っています。
 要らない部分を削って削って、これだけは伝えたいと大事なことだけを残したフレーズは人目を惹きます。コマーシャルの秀逸なキャッチフレーズや、かつてヒットした歌謡曲、誰もが知っている文学の有名な書き出し。

 しかし一方で、削り切った「致命的」な言葉は劇薬です。
 削り切った部分だって考案者の心から出てきた表現の一部ですし、全体のバランスから見れば不要で不格好に見えてしまう枝葉の部分にも血は流れています。
 下手にその枝葉を落としてしまえば、本来伝えたかったこととは違う形になってしまって、気付いたころには目指していたところとは遠く離れた場所に流れ着いていた……なんてこともあります。

 

 こんな場末でチマチマと、週末に慌てて記事を置いていくだけの自分ですが、仕事として食っていくことを目指していないなりに、いつか「自分はそれなりに書けるぞ」と言えるくらいには文章のワザをものにしたいと密かに野望を持っていたりします。
 しかしこの「削る」は難しい。本当に難しい。キーボードに向かって文章を捻るにしろ、誰かに向かって語り掛けるにしろ、私はこの無駄な枝葉を付け加えずにはいられないのです。

 (野望を持つならもっとデカく出ろ! とは思いますが、これがなかなか勇気の要ることなのです。ひとまずはこの規模ということにしておきたく……)

 

 カッコ書きをしながら、ああ正にコレだと頭を抱えました。そうコレです。余計な枝葉。
 一言で断言することは大抵、微妙なニュアンスを捨てることと同義です。私はどうしてもそれを避けようとして、こういう二言目を挟んでしまいます。

 会話をしているときも、書き言葉ほどではありませんが似たようなことをやっています。
 極端なたとえをするなら、「最近は忙しかった」と言ったあとに「夕飯を家で食べられないほどではないけど」と付け加えるような具合。

 枝葉はない方が格好いいとは思っているのですが、60%くらいの気持ちで発した言葉も100%に近い出力として受け取られてしまうと、さらにはそれが続くと、これがなかなか困ったことになる。
 何かのご縁でこの記事をここまで読んでしまった方にも、そういう「程度」の行き違いで大変な思いをしたことが一度や二度はあるのではないかと思います。

 

 急に漫画の話になってしまいますが、いま私が欲しているのはメイドインアビス架空言語「イルぶる言葉」なのかもしれません。
 ご存じない方向けにザックリ説明すると、イルぶるの言葉には意義の複合および「割合」があります。
 「イルぶる」=村:ゆりかご:母=5:4:1
 というように、一単語に複数の意味を、割合を決めていっぺんに表現できるんですね。
 (割合を流動的に変えられるかは言語が解読されきっていないため不明ですが……)

 そんな風に日常会話でも意図の程度を、高い精度をもって伝えることができたらと夢見ています。
 そうすれば不格好に二言目を付け加えてわざわざ調整する必要もない。

 

 とはいえ日本語ではそんな芸当などできないので、今日も私は、これで自分の考えをちゃんと表現できているのだろうかと案じながら記事を書き、メールを書き、ラインを送り、挨拶ついでに冗談を言う訳です。

 人に伝える目的で言葉を使うのなら、相応の覚悟と責任をもって行うべし。
 最終的な結論はコレになりそうですね。
 上達を目指すなら技能や経験に加えて、そういうマインドも必要になるのかもしれない……先は長いな……。

 

 今日のところはそんな感じです。
 また次の日曜に。