#152 パラノマサイトをクリアした
クリアしました、パラノマサイト。
ついでに実績全解除してきました。
期待以上のクオリティだった……面白かった。
今週の記事はSteam版『パラノマサイト』の感想です。
クリア時間は12時間。実績解除時は12.6時間。おてごろボリューム。
記事の後半にネタバレを含みますので、購入前にここに来てしまった方は前半だけ齧るか何も読まずに引き返してください。
この作品は展開を知らずに飛び込んだ方がいい。
大抵のゲームはそうだけど。
前置きはそこそこに、以下本文。
【アドベンチャー入門に最適な良質テキスト&システム】
当方、手を出すジャンルはアクションが圧倒的に多く、次にパズル、次にRPG……といったところ。
テキスト主体のアドベンチャーは滅多にやりません。
そんな生半可な人間でも非常に快適に遊べました、この作品。
これは本当にすごいこと。
まずね、テキストが非常に読みやすい。画面に映る台詞は2行に限定し、各行の文字数もかなり絞っています。
さらに読点は使わずにスペースで区切るというこだわりぶり。
台詞だけでなく、ストーリー外で閲覧できる資料も同じフォーマット。徹底しています。
これにより、ゲームで長文が出てくるとワーッとなる紳士淑女の皆様もスラスラと自然にストーリーを追えるという寸法です。
ユーザーフレンドリー!
また、文章量を絞ることで必然的にテキスト自体の質も上がります。
何故なら「必要なこと」を少ない文字数に詰め込むために、一文一文を磨き上げる工程が必須になるから。
「必要なこと」は状況説明であったり、話者の人となりであったり、雰囲気の転換だったり、色々。どれも重要です。
あとは、調査が完了した場所や選択肢が判別しやすい探索画面、要所で挟まれる「今は先に進めない」等のガイド、多すぎない選択肢、とアドベンチャーに慣れていない人間にやさしい作りもおすすめポイントです。
メインストーリーを夢中で追っていたら気付けばエンディングまで駆け抜けていた訳ですが、その間「アレを見落としていたから詰まった」という場面はほとんど無かったように思います。
隅から隅まで舐めるように調べないとクリア出来ない作りではない……というより、隅から隅まで調べてもそこまで時間を食わないから見落としが少ない、といった感じです。2000円相応のボリュームが逆説的に強みに。
普段は脳死でジャンプしたり剣を振ったりシャケをシバいたりしている当方ですが、パラノマサイトは読みやすい中編伝奇小説のような感覚でスイスイと進められました。
この咀嚼しやすさを考えると、本作は普段テキスト・アドベンチャーをやらない人でも大変遊びやすい、いわばジャンルの入門編として紹介できる作品と言えましょう。
知らんけど。
【東京のことなんも知らん】
お恥ずかしい話なのですが、当方はもともと地理に非常に弱く(方向感覚はマシなんだけど地名の暗記が苦手)、更には東京とあまり縁のない人間でありますゆえ、本作に出てきた実在するランドマークにほとんど反応できませんでした。できて隅田川くらい。
なんならスミダ区を漫然と“隅田”区と認識していたレベルです。おお無知。
そのため「アーッ、あそこか!」と現実とのリンクを見つける楽しみ方はほぼ出来なかったのですが、きっと東京の地理に詳しかったり現地民だったりすれば本作の面白さは1.5倍くらい増えるのではないかと思います。羨ましい。
エンドロールを見るに墨田区観光協会さんがガッツリ協力されているようなので、これを機にパラノマサイト聖地巡りをしてみるのもいいかもしれませんね。
いざ地域振興。
【キャラ良し、BGM良し】
いやね、立ち絵が本当に綺麗。とても好きな絵柄です。
噂に聞くところによると私の好きな「すばらしきこのせかい」に関わった方がキャラクターデザインを担当されているようで、思わぬ繋がりに膝を打ちました。そりゃ刺さる訳だ!
マダムこと志岐間春恵があまりにも佳すぎる。幾夜も幾夜も泣き続けたのであろうあの目元。豊かだがほとんどがダーク寄りの表情。ああマダム。
ミヲちゃんをもっちりふくふくに描いてくださった件についてはもう“感謝”としか申し上げられないですね。
個人的には序盤のヨーコちゃん&興家くんの親しみやすい見た目も好みでした。導入にはピッタリの二人。
あとBGMも良質でした。
警察組のルートではは○れ刑事的な曲、マダム&プロタンのルートではシャレオツな曲、どれも絶妙に80年代っぽさが滲み出ていていとエモし。
当方は微妙に世代ではないので、「子供のころに観たちょっと昔のドラマの再放送を見ているときを思い出すタイプのノスタルジー」を感知しました。画質がちょっと粗い感じのアレ。あるいは、ファッションセンスがちょっとズレてる感じのアレ。
※ここから少しずつネタバレ※
【人物像の面白さ】
デザインも勿論のこと、内面、キャラクター造形も大変魅力的。
マダムの「過去の抑圧」「喪失」「箱入り娘の純真さ」「悲願」「殺意」を全て詰め込んで“一人の人間”として成立させているバランス感覚ときたら。危うい。
このパラノマサイトのヒリヒリ感の根源はほとんどマダムが請け負っていた気がします。
このマダム、バーサーカーすぎる。しかしバーサーカーと称するには儚すぎてやるせない。ああマダム。
プロタンこと櫂利飛太のキャラも素晴らしい。
ドラマを引っ掻き回す飛び道具役かと思いきや、作品全体の「良心」「清涼剤」「コンプライアンス的説明」を担当する重要な役でした。そんなことある?
駄菓子屋や公園の遊具で大はしゃぎしたかと思えば、人道を踏み外そうとするマダムをケアしつつあの手この手でセーブする正義感、切れ味の良さ。
まあ…… 恐ろしいのね プロタン。(このセリフすき)
刑事組の漫才も良かった。
特に津詰警部、彼のセリフはかなり令和調というか若めに作ってあるので(おそらく読みやすさ・親しみやすさを優先したため)昭和真っ只中のオッサンながら読み手を置いてきぼりにしないお茶目な人物になっていて良かったですね。
女学生たちは……当方こういう娘たちがそのときの心身の精一杯で人生にぶつかる物語に弱いんですわ……。
真実を知ろうと奔走し、そこで直面した真実を真っ向から受け止める約子ちゃん。
覚悟の決まっているミヲちゃん。
筆舌に尽くしがたい境遇を生きた白石さん。
つっけんどんながら何処か寂しげな奥田ちゃん。
皆好きだよ……幸せにおなり……白石さんは成仏しておくれ……してたわ……。
大学生組。
並垣くんは……やることなすこと全てがあまりにも小物なので妙に好感が持てます。でも他人に罪を擦り付けるのはどうかと思うよ。君らしいけど。
境遇から裏寂しいものを感じましたが、それをもって「敵役にも悲しい過去」で済ませないドライさにシナリオの誠実さを感じました。
どんな人物でも轢き逃げはやっちゃイカンのよ。
あやめちゃん。
怖い。家庭環境に難があってうまく親の愛情を受け取れなかった子の“いびつさ”が生々しく表現されているのが怖い。
掴みどころがないんですよね。彼女は自分自身を愛していないので、確固たる「これが私の軸、私の価値」がない。それ故に、彼女の語る言葉は都合に合わせてコロコロ変わる。だから読み手は彼女を理解しきれない。
が、そういう底知れない造形の子は妙に心に残りますね。不思議なものです。
彼女こそ「敵役にも悲しい過去」の枠でしたが、それはそれとして漸く父親になれた津詰警部から「罪から逃げるな、償え」と言い渡されるのはパラノマサイトの一貫したスタンスの表れと言えますね。
物理だろうがオカルトだろうが罪は罪。
この作品のジャンルはホラー・オカルトよりはサスペンス寄りなのかもしれません。
その他、ここで挙げ切らなかった人物たちも基本的にみんな好きになりました。いい物語だった。
ただし城之内、テメーは駄目だ。馬鹿囃子されてきなさい。されてたわ。
【秀逸なメタ演出】
要所で差し込まれるメタ演出に痺れましたね。
こういうの好き。もっとくれ。
しかもそれらのメタ演出を全て、プレイヤー=「本作の諸悪の根源と対峙すべき人物」が行うべきだったというオチに繋げたのが秀逸。
ゲームシステムを劇中設定にリンクさせられる作品は名作だと何度でも主張したい。
ここで具体名を挙げるとそれだけでネタバレになるから書けないけれども。
【オチについて】
ヨーコちゃんの方が下心人情たっぷりじゃないですか!!!!!!!!!!
いや、興家編が終わってね、解放された3人のルートを進めるうちに彼らの時系列が「興家死亡ルート」だと判って、依然として顔を出さないヨーコちゃんが絶対怪しいとは勘付くじゃないですか。
それでもプレイヤーとしては「ヨーコちゃんを救わなきゃ!」が出発点でしたし、なによりあの天真爛漫・元気溌剌あっけらかんガールのヨーコちゃんが妙に可愛くて好きだったので、どう足掻いても彼女が生きていてはいけないって結論はかなり切なかったですよ……。
あ、これは文句ではないです。シナリオを楽しみつくした上で個人的な泣き言を喚いているだけです。
そりゃ興家くんだってモスコミュールを呑みたくなるわいな。
おおヨーコちゃん。君はどこまでアシノで、どこまで本当のヨーコちゃんだったのか……。
そして興家はどこまでセイマンで、どこまで興家として自覚があるのか……。
つくづくこの乗り移りというか、先祖が取り憑くシステムは残酷だと思いますよ。ええ。
そんな具合で楽しんできました、パラノマサイト。名作でした。
シリーズ化されたら多分次も買うと思います。是非!
またあの案内さんにお会いしたく存じます。案内人さんがナカゴシさんなら、きっとミヲちゃんにもまた会えますよね?
期待を抱きつつ、今回はここまで。
それでは、また次の日曜に。